たとえば、二人の食環境の違い。
私の母親はとても料理のうまい人だった。
他方、義母は料理が苦手。
私自身は料理が得意とまではいかぬが、まんざらでもない。
料理をはじめ、簡単ケーキレシピなんてのも時々やってのける普通の主婦力はある。
実は、夫の実家に帰省すると用意される手料理が正直マズイ……。
取り立てて舌が肥えているのでもない私が〝マズイと思う〟のだから一般的にもおいしくない料理であることは明らかだろう……。
けれど、ここで問題にするは料理の腕前ではないのだ。
「kakoちゃんゴメンね、マズイでしょう?」
そんなことを私に訊いてくる義母の神経が不思議なのだ。
どうして返事のできないことを訊くんだろう。
そうかと言って、黙ってしまえばマズイと返したことになるじゃないか…。
自分でわかっているのなら訊かないで欲しい。
そうであればたくさん食べてあげることで義母の気持ちを汲んであげれるだろうに。
「あたしさ…料理すんのが下手なのよね」
やたら何度も繰り返されるセリフ。
食事中に目の前で何度も何度もそういうことを言われるとゲンナリどころか、もうわかったって!それなら完全に演じてやろうか?なんて考えが浮かぶ私。
「おかーさん、そんなことないです!とってもおいしいじゃないですか!」
「ほんとゴメンね、あたし、昔から料理がダメなのよ」
「いえいえ…いいんですよ、おいしいですよー」
「kakoちゃん、この辺りではね、お客さんが来ると外食でもてなすのが普通なのよ」
「へー、そうなんですね」
「そーなのよ、普通は外で食べるのよ」
ハイハイ、じゃあ最初っから外食にすれば目の前で見つめられて〝マズイでしょ?〟と連発されることもなかったじゃないか…。
それとも、自分の料理の腕前が悪いのは地域文化のせいだとでも言いたいんだろうか?
とここまでは、単に義母に毒を吐くだけの内容に過ぎない。
実は、義父母は自営業で生計を立てており忙しかった頃は寝る間もないのに食事の用意をする暇があるわけない状態だったそうだ。
だから日中は何か適当にかいつまんで食を済ませ、夜はほぼ店屋物。
そんな毎日を休みなく繰り返してきたそうな……。
こんな私が言うのもなんだが、苦しかっただろうと思う。
一方、私の実家はサラリーマン一家だ。
母はほとんど専業主婦であり、外食の機会など滅多になく食事は毎日手料理。
そうだ、家庭環境が根本的に違うのだった。
だからこちらの視点で義父母の生活環境を否定するなんてできないだろう。
ところで、そういう実家で育てられたのが夫だ。
実家のことはどうだっていい。私が気になるのは自分の家族である夫のことだ。
食べることに無感動な家庭で育てられた人は家庭を築けばどうなる?
妻がいくら料理を頑張ったとしても、評価してもらえないだろう。現実に、私がどんなに手間暇かけて作った料理でも「わーっ、うまそー!」なんてリアクションを頂戴した経験はないぞ……。
やっぱり、この人も義母と同様、おいしいものを食べる喜びには無感動なんだろうな。
母親のおいしい手料理で大きくしてもらった私。
寝ず食わずの働きぶりを見て育った夫。
これからも食への考え方が根っこで交わることはないんだろうなと思った。
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