精神科に入院中、夫は一度だけ見舞いに来てくれた。
生まれて初めて閉鎖病棟という医療環境で過ごす私にとって、夫の来院は私が抱えた心細さをサッとぬぐい取ってくれるかのように私の心を温めてくれた。ついこの間、離婚届を突き付けた相手なのに?
来てくれると気持ちがぬくもる?
弱り切った自分にとって、愛は過去形であっても温かいものだったのだろうか……?
ところで、夫が見舞いに来てくれたのには理由、いや、私の親友による根回しがあったのだ。
入院前の私の不可解な言動が精神病的なものだと察した親友は、私が入院してしまった後、夫にかけあって妻のもとへ行くように仕向けたのだった。
つまり、100パーセント夫の意思によって私を見舞いに来たものではなかった。
そんな夫だから、親友が離婚した方が良いと助言するのも当然の話だったろう。
普通……、妻が精神科に入院してしまったならば誰かに指図を受けなくとも入院に至る原因や処方薬の安全性などについて気になるはずだ。
だから入院後、少なくとも一回は私の担当医と面会を行って病状や治療計画について理解しようと行動するのが〝普通〟であるはず。
――退院後。
夫が私にもらした言葉がある。
「病気になったとは思わないようにしていた。もしそうなら余計な詮索をしてしまいそうだったから。だから、病気じゃなくてそういう人間なんだと解釈した」
なるほど、病気になったと思えば自分に原因があったのではないか?と反射的に考えてしまうことを避けたかったんだろう。
夫は、妻が精神科の閉鎖病棟に入院しても自分の心を守りたいんだ。
不器用な人……なのかもしれない、夫は。
卑怯な人なのかもしれない、夫は。
けれど、私は発病原因の全てが夫だとは思わない。
むしろ、そのことで彼を責めることだけはしちゃダメだとさえ考えていたのに。
うつ病にさせたのはオレじゃない。
妻の心が弱かっただけだ。それが夫の解釈だった。
夫の本音に触れたことで、吹っ切れたんだろうか……
その後、私のうつ病は好転した。
夫に言わせれば弱い人間だった私。
夫に愛情を求めた私が、夫の無情に触れて強くなった瞬間だった。
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