離婚を決心して置き手紙ひとつ残して家を出た日のことを追記しよう。
その夜、思いの外、夫から電話が掛かってきた。過去に家を飛び出した経験は幾度かあった。が、彼の方から連絡してくることは皆無。
だから、離婚届に判を押して家を出た私を探すとか連絡をするとかあるわけがなく、そうさ今ごろ自分だって署名してるにちがいないさ…と考えていた。
だいち、過去に数回家出したことはあるが連絡がきたことなんて一度もない。
そんな私だったから、さっそく電話が掛かってきたときには耳を疑う心持ちだったのだ。
「なんだよ?離婚って…なんだよ…」
私はともかく、夫はかなり動揺していたのだ。
「まさか本気じゃないだろうね?」
「本気です。もう決めています」と答える私。
「ちょっと待って!どうしたんだよ?離婚なんていつから考えていたんだ?」
「ん?ずっと前から…気づかなかった?」
そもそも、離婚とは〝私の決意待ち〟ぐらいの考えが夫にはあったと思う。
それは妻の確信であったのに結果、誤信となったのだ。そして、結婚生活をやり直させてくれと嘆願してきた夫。
「悪かったと思ってる、俺にもういちどチャンスをください」
この一言に私はいとも簡単に心が折れた。
――離婚計画は失敗に終わった。
翌日、彼は仕事を休んだんだろうか…?
それは聞かずとも知れた。
勝手に入ったことしかない我が家の玄関を、夫は自ら開けて迎えてくれた。
「おかえり……ごめん」
気恥ずかしそうに、謝意を込めてポツリとつぶやく夫に裸の感情を垣間見た気がした。
とりあえず、リスタート。
私たち夫婦は再出発した。
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